「危機」
イエス

ジョン・アンダーソン:ヴォーカル
ビル・ブラッフォード:パーカッション
スティーブ・ハウ:ギター、ヴォーカル
クリス・スクワイア:ベース、ヴォーカル
リック・ウェイクマン:キーボード


古いサッカーファンなら知っているが、かつてダイヤモンドサッカーなるテレビ番組があった。
週末の夕方に放送していたのだが、その前は平日の夜、確か火曜日の23時からやっていた。この辺になるとかなり年配の方でも知らないようなので、あんまりそのことにこだわるとえらい年寄りと思われかねないからあまりしゃべらないようにしている。

この番組では海外の試合を前半・後半に分けて2週で1試合を放送した。なにせ当時は国内外に関係なくサッカーの試合なんてめったに放送がなかったから食い入るように見た。「ワールドカップってなに?」「ベッケン・バウアーって誰?」と日本の大半の人が言っていた時代である。
解説は日本サッカー協会の技術理事岡野俊一郎氏(現在は名誉会長)。この岡野さんの解説がすばらしかった。
スーパープレーの解説はもちろんだがトラップの仕方、パスの仕方、ポジションごとの役割、ボールを持っていない選手の動きなどあらゆることについて実に的確だったと思う。日本のサッカーに対する岡野さんの貢献は計り知れないものがある。

岡野さんはこの番組でサッカーについて大事なことを多く語ったが、その中のひとつに「意思の疎通」があった。
サッカーのゲームでは話し合わなくてもチーム全員が同じことを考えていなくてはいけない。一人の選手のひらめきを全員が瞬時に感じ取らなくてはいけない。
そういうことだ。

当時は「危機」を聞きながらいつも「意思の疎通」のことを考えていた。このアルバムには「意思の疎通」がいっぱいだからね。
「危機」「同志」「シベリアン・カートゥル」の3曲が収められているが、どの曲も複雑で難易度が高い。「いったいどうやってこの曲を作ったんだ?」と聞く人に思わせる。歌のメロディーを作って、ドラムとベースのパターンを決めて、ギターを刻んでキーボードで味付けなんてやり方では決してできない。でも一人の人間がスコアを書いているわけでもない。
全員が同じ方向を見つめ、同じようにひらめくのだ。

いいなー

イエスのメンバーは皆腕の立つミュージシャンだがこのアルバムではハウのギターに感心させられる。
プログレッシブロックと言えばキーボード主体の演奏みたいなイメージがあるが、イエスではハウのギターがバンドを引っ張る。チョーキングを使わない、ブルース臭さのない独特のスタイル。「シベリアン・カートゥル」のイントロなんて何風といえばいいんだ?よくもこういうフレーズを思いつくもんだ。

イエスのリハーサルを見て「軍隊みたいだ」と言った人がいる。
あるいは楽器おたくが集まって作った音楽と言う人もいた。
確かにそうかもしれないけれど、すごいスピード感の中で鮮やかな連携を見せるイエスの音楽にはやっぱり奇跡を感じてしまいます。







(2005年4月25日)