「水と戯れる」
2007年8月4日(土)くもりのちきつい雨
長野新幹線がやけに込んでいると思ったら、そう、今は夏休み。老若男女すべからく活発化するときなのだ。
ま、人のことは言えんがな
中年の女性登山グループ?に混じって長野駅の改札を出ると、森と水の三井さんが出迎えてくれた。
三井さんの車に乗って目的の沢に向かう。

ちなみに三井さんの車はかすかに渓の水の匂いがする。
別に不快な匂いではないが、初めてだと少し不思議かも。
生命の気配を感じさせる匂いである。

2時間半ほど走って登山口に到着。近くの温泉で抜かりなくビールを購入し、いよいよ歩き出そうとしたそのとき、我々の眼にこのような看板が飛び込んできた。

中越沖地震で道が崩壊・・・
三井さん、固まる。
この道が下山ルートなのである。しばらく思案した後、道を使わずに沢を下ってくることに決定。
今回のツアーは沢を泳いだり、岩を登ったり、鋭く宴会したりが目的なので、根本的なところでの問題はない。

沢に入ってしばらくすると大きな渕。ここで沢での泳ぎを初体験する。
ザックを担いだまま泳ぐときはウエストベルトをはずし、背中の上でザックをやや斜めにするのだそうだ。こうすると平泳ぎをしたときにザックに頭を押さえつけられることがない。でも重いね。

ところでカモノハシは泳げるのか?

泳げる。

泳げるどころかかつて配偶者と一緒にプールに行った際、
「お前はイカか」
と言われたほどである。
でも今日は天気が今ひとつぱっとしないため泳ぐと少々寒い。
地面をならしてタープを張る。
快適なテン場のはずだ。
ちょっと水面に近いけど。

少し早いがテン場を決めてタープを張る。今日はここを拠点に上まで行ってみようという算段である。
しかし出かけてはみたものの、ますます気温は下がり水の中にいるのがつらい。三井さんに寒い旨を伝え、今日の遡行は中止としていただいた。
テン場に戻り付近で夕食用のイワナを釣ろうと試みる。しかしながらさっぱりだ。
後でわかったがこの区間は虫が少ない。上流に流れ込んでいる支流のせいかもしれない。

夕食を食べ始めてしばらくすると雨が降り出した。焚き火のそばを離れてタープの下に引越し。そこで三井さんが作ったジャガイモなどをつついていたが、いきなり雨脚が強くなった。
水がたまってタープがたわむ。タープを持ち上げて水を捨てている間にも雨は激しくなり、グランドーシートの上にも少し水がたまりだした。
ふと後ろを見ると山側から水が流れてくる!三井さんが合羽を着て溝を掘り始めた。私は雨でつぶれないようにタープを持ち上げる。
このテン場は川面から1メートルくらいしかない。上流にはダムがあり、雨量が多いと放水するのだ。
三井さんから指示が出る。
「合羽を着て、沢靴をいつでも履けるようにしておいてください。食料はザックに入れてすぐに山へ上がれるように。」
ひえー
雨具を着てタープの下で真っ暗になる。日が落ちてあたりもどんどん暗くなる。
雨の中、山の中で過ごす一夜はつらかろう。
「放水するときはサイレンが鳴るんですが、これじゃあ音が聞こえないなあ。」
三井さんがますます心配なことを言う。
しかしそう言いながらも三井さんは黒豆をつつきながらワインなぞ飲んでいる。それを見て私もまあ落ち着くことにした。
30分ぐらいすると雨脚が弱くなり、さらに30分くらいすると雨がやんだ。まだ油断はできないないが、どうやら一山超えたらしい。
雨水がたまってあっという間にタープがたわむ。
風前の灯ってこと?
おしゃれなキャンドルスタンド。

スパゲッティを食べた後、寝ることにする。
しかし気が高ぶってときどき目を覚ましてしまう。いつなんどきサイレンが鳴るかもしれないからね。ザックカバーの中で横になりながら雨具や食料をザックに入れたことをもう一度確認する。

夜中にトイレに行きたくなってふと目を開けると、あたりがやけに明るい。朝か?と思ったがそんなはずはない。タープの外に出て上を見るとわかった。
雲が切れて月が出ているのだ。
こうこうと月が照る。
月の光の中でキャンプしているのだとわかると妙にうれしかった。

2007年8月5日(日)くもりときどき晴れ
目が覚めると川が流れていた。

渓でキャンプをしてうれしいことの一つに、朝起きて最初に目にするのが川が流れだということがある。
昨晩の濁りは治まり、川の水は澄んでいる。三井さんはすでに焚き火を起こしているようだ。

朝食を食べてお茶を飲んでいると、下流から3人の釣り人が上がってきた。
ウェーダーを履いたフライフィッシャーだ。
我々が釣りをしないことを告げて、先に行ってもらう。

今日も暑くなることはなさそうなので、雨具を着て泳ぐことにする。さらにハーネスをつけて準備完了である。
へつったり、泳いだりしながら上流へ進む。雨具を着ているので泳いでも少し寒い程度。歩いていれば問題ない。

雨具を着ているので泳ぐといろいろなところに水がたまる。
袖口のマジックテープをはずすと水が出る。
裾をまくると水がこぼれる。
三井さんはザックの中にも水がたまるらしく、下を向いて水をこぼしている。
泳ぎ終えるたびに二人でじゃーじゃ−じゃ−じゃ−これをやる。
まるで手品である。

快調に進んでいくと、先ほどの3人に追いついてしまった。
三井さんは、先に行かせててもらって泳ぎましょう、などと言うが、イワナに混じって泳いだら彼らは卒倒するだろう。沢屋は渓流釣師の天敵なのだ。私も今までは沢屋を警戒する方だったが、今や釣師にプレッシャーを与える側になってしまった。
ボルダリングの練習をしたりしながらゆっくり進んだが、大きなゴルジュでとうとう追いついた。
私たちはここを泳ぐが、彼らは高巻きだと言う。ここを高巻くのはたいへんだろう。
ゴルュジュを泳ぎ、日当たりのいい上流の大きな岩の上で身体を温める。
何気なく今泳いできたゴルュジュを見ると、下流側に3人の釣り人の姿が見える。どうやら高巻きはできなかったようだ(今まであったトラロープがなくなっていたとのこと)。
さらに見ていると服を脱ぎ始めた。
ウェーダーやら服やらをデイパックにつめ、パンツ一つでゴルジュを超えようとしているのだ。
いくらなんでも寒いだろう。
ロープを持って三井さんと救出に行く。彼らは頭の上にデイパックを載せて水に入るが、冷たくて引き換えしてしまう。これを何回か繰り返す。気の毒だが笑える絵である。とうとう三井さんが泳いでいってロープを渡し、ロープにつかまってもらって一気に引っ張る。
やっとゴルジュを超え、身体を乾かす彼らを後にして沢を遡る。

何回か泳ぐと広いところに出た。ここは釣りにいいポイントだ。お茶を飲みながら三井さんにそんなことを語った。
しばらく休憩してテン場に引き返す。
途中で釣師たちとすれ違う。
ばりばり釣ってね。

テン場を撤収して下山。
温泉に入った後、三井さんに駅まで送ってもらう。

新幹線に乗るためにザックを担ぎ上げると
渓の水の匂いがした。
カモノハシ百態
右はザックにつかまって泳ぐ練習。
溺死寸前のカモノハシを見つめる釣り人。
ボルダリングもしてみるが(上)
このクラックは登れない(左)
たまには跳んでみる。
実は足を滑らせたらたいへん危ないところ。