2004年8月29日(日)くもり
「九州へ飛ぶ」
午後9時過ぎ、我々を乗せたボーイング777は羽田を飛び立ちました。
向かうは福岡。
おりしも南からは台風16号が九州上陸の機会をうかがっており、我々の機はまっしぐらに台風に向かって飛ぶこととなりました。
心なしかスチュワーデスに笑顔は少なく、皆さん緊張の面持ちです。
堕ちっかなあ
プロフェッサーKこと小林良彰さんから「8月末に九州に行きませんか?」というメールが届いたのが8月の頭。
8月中旬には沢登りツアーがすでに予定されており、どうしようかと一瞬迷ったのですが、こういう機会はめったにあるまいと考え、職場の皆さんにいろんな嘘をついて休暇を取得。小林さんに同行させていただきたい旨、メールを返信しました。
数日後に小林さんから電話がありました。
「どうぞよろしくお願いします。」
「いやいやこちらこそ。」
「ところで小林さん、九州には何しに行くんですか。」
小林さんによるとかつての昔に食用として日本に輸入されたライギョを釣り、日本で一番早く稲作が伝えられたであろう農村を見学し、ラーメンを食べ、焼肉を食べ、九州の食文化、ひいては日本の食文化を探る旅、とのことです。
しかもライギョ釣り場に通じる田んぼのあぜ道ではヤマカガシの総攻撃あり、夜には人喰いカブト(ムシ)の襲撃ありと、盛りだくさんです。
うーん興奮しますねえ。
私は大いに喜んで、出発が楽しみであることを伝えました。
ライギョ
ライギョかあ
ライギョの思ひ出
私が通っていた小学校には、校庭にコンクリートの水槽がありました。
そこにはみんなが捕ってきた小魚が放してあったり、水生の植物が植えられたりしていました。
教材として稲もあったと思います。
その水槽にいつの頃から30センチくらいのライギョが棲み始めました。
おそらく魚屋のせがれであるヒデミ君が入れたのだと思います。
ある日、私が体育館に行くために水槽の前を通りがかると、同級生のナカタマスミさんが友達と話をしていました。
ナカタマスミさんは水槽に右手をいれ、ぱちゃぱちゃと水をかき混ぜながら楽しそうにしていました。
次にナカタマスミさんに会った時、その右手指には白い包帯がしっかり巻かれていました。
ライギョにお咎めはなかったと思います。
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台風の影響ではたして飛行機が飛ぶのかどうか心配しながら羽田に集合。
メンバーは小林良彰さん、WTさん、そして私カモノハシの3人です。
しかし飛行機はなんてことなく飛び、なんてことなく福岡に到着。
空港の外で今回のガイドの方の車を待ちました。
小林さんがガイドの方について何もおっしゃらなかったので、私も深く考えていなかったのですが、ワゴン車で我々を迎えに来てくれたのは、バンブーロッドビルダーとして名高い井手高太郎さんでした。びっくし。
久留米市のビジネスホテルにチェックインした後、焼肉屋に行って夕食。すごくおいしい肉でした。
2004年8月30日(月)雨 というか台風
「男の釣り」
朝5時半にホテルのロビーに集合。高太郎さんが車で迎えに来てくれています。
台風は急速に九州に接近しつつあります。本格的な荒天にならない内にとライギョの釣り場へ急ぎます。
それにしても九州の人は激しい台風にいつも見舞われているためか、傾向と対策がしっかりしています。
コンビニや商店のガラスには割れてもガラスが飛散しないようにガムテープが張ってありましたし、土嚢を用意している家もありました。関東の人間とは感覚が違うようです。
雨が降り始める中、釣り場に到着。幸太郎さんの案内で田んぼのあぜ道を進みます。
ロッドは3人ともYK40。私のリールはアブのアンバサダー7000番。ラインはPEの10号。ルアーは3人ともMP65「ラ式」です。
着いたところは用水路というか池というか。ヒシモがたくさんはえています。
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台風の中、WTさんにヒット! と思われたがばれました。 残念。 手前はガイドの高太郎さん。 |
実は私はベイトキャスティングタックルを使うのは初めて。メカニカルブレーキを調整してヨチヨチと投げ始めます。
さすがにガイドの方が選ぶ釣り場だけあります。ほどなくして私のルアーにガバッとライギョが出ました。しかしながら事前に小林さんや高太郎さんに言われていたことをすっかり忘れて、ヤマメでも釣るように合わせてしまい空振り。
その後もあたりは何度もあるのですが合わせがうまく行きません。
合わせについては小林さんによると
@ライギョがどばっとルアーに出たら
Aラインのスラック(たるみ)をすばやく巻き取り
Bラインに一定のテンションを与え続け(多少ひっぱてもライギョはルアーを放さない)
Cタイミングを見計らって
D親の仇のように強烈に合わせる
のがセオリーとのこと。
それから40センチ以下のライギョだとルアーを食いきれないのですっぽ抜けるのだそうです。合わせはでかいやつの方が楽とのこと。
この釣行ではライギョを観察できる機会が多かったのですが、小さいやつはルアーをくわえ損ねるか、くわえてもしばらくするとこれは食いきれないとわかるのかルアーを途中で放してしまうことがわかりました。
そうこうするうちに風雨がものすごく強くなってきました。
私はレインスーツの上だけしか着ていなかったので下半身はずぶぬれ。トレッキングシューズの中にも水がたまってしまいました。
暖かいので問題ないといえばそうなのですが、背中に当たる雨が痛いし、突風で水に落ちそうです。
何回もライギョのアタックがあります。すごい派手です。
ばしゃ、とか、どしゃ、とか、どばしゃーん、とか。
すごく非魚的です。
WTさんは巧みなキャスティングでライギョをかけますが、ジャンプして逃げられたりしています。ジャンプするライギョはなんだか深海魚のようです。
いいなあ。私のルアーにも来ないかなあと思っていると、
ばしゃっと水しぶきがたって私のルアーに魚が出ました。竿を立ててみるとぐーっと魚がラインを引っぱります。
「死ねえええええ」
気合一閃、力まかせに合わせるとヒット。
「のった、のった。」
と思わず叫んでしまいました。高太郎さんが走ってきて何か指示をくれますが、全神経が逆立ってしまっているので何も聞こえません。
「うりゃうりゃうりゃ」とリールを巻きます。
「ばばばばばっ」と魚が抵抗します。
「うりゃうりゃうりゃ」「ばばばばばっ」「うりゃうりゃうりゃ」「ばばばばばっ」
「うりゃー」
引きずり上げると40センチくらいのライギョ。小物ですが初ライギョです。うれしくてうれしくてたまりませんでした。
ライギョは水際の地面に置いてやると、自分でずるずると歩いて(?)、水の中に消えました。
その後もみんなでがんばりましたが、あまりにも雨と風が強くなったため撤退。
みんな「これが男の釣りだ」と満足そう。
しかし財布の中までびしょぬれになり、自動販売機にお札が入らなくて困りました。
一度ホテルに戻って着替えてからごはんを食べに出ました。
幸太郎さんお奨めの松尾食堂でたまご丼を摂取。だしがたっぷりしていておいしい丼です。
次に高太郎さんが子供の頃から来ているという温泉に。
ここは2種類の源泉があり、普通の温泉とぬるーい温泉の湯船が並んでいます。
ぬるい温泉にのんびりつかっているといい気分です。
しかし台風はいよいよ九州に上陸したようで外はえらく騒々しくなってきました。
2時間ほどでそこを出たのですが、驚いたことに道路沿いの川が濁流と化しています。
しかもなにやら妙な音が聞こえます。
「放水のサイレンですね。」「初めて聞きましたよ。」「この川に入ったら死にますかね。」「死ぬね。」
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その後ますます台風は威力を増しましたが、私達のいる所は直撃を免れました。
夕方になると風雨が弱まってきたので、もう一度朝と同じポイントに行きます。
うーん、少し水かさが増えてますね。
みんなでルアーを投げますが、朝のような反応はなく、この日の釣りは終了。
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さて、おいしいものを食べようと、高太郎さんがはりきって車を出してくれましたが、台風のため市内の多くの店がお休みです。
それでも連れて行っていただいた串焼きとラーメンは絶品でした。
初めてまともに九州ラーメンを食べたのですが、味が濃いわりには口に残りません。
麺は関東のものよりももっちりしていたように思います。
台風の中で釣りなんてしてよかったんでしょうか?
今回のタックルはこれ。
ロッドはYK40カラシニコフ。
小林さんが厳選した数人の職人さんの気合で仕上げられています。
ちなみにグリップの木の部分は家具職人の方が製作したそうです。
YK40はおかっぱりで釣れる日本中の魚に対応する、
をコンセプトに設計されています。
ライギョ、ソウギョ、コイ、アカメ、なんでも来いです。
リールは小林さんに選んでいただいた
AbuGarciaのambassadeurBG7000HSN。
まさか自分がアブのオーナーになるとは思いませんでした。
気分は開高健ですな。
ラインはVARIVASの「雷魚」
PEの10号でパワーは130ポンド(!)あります。
軽い人なら逆さづりです。
ルアーは高太郎さんが「小林さんは天才的」と絶賛する「MP65ラ式」(写真下)。
視認性が良く、ライギョの反応が良く、ウィードレス効果が高く、
さらにライギョを無用に痛めない抜群のルアーです。
右のラ式はライギョの猛攻撃を受けてぼろぼろです。
なお、小林さんプロデュースの製品は「小林重工」のブランド名で
サンスイ新宿店、上野店などで取り扱っています。
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2004年8月31日(火)くもりのち晴れ
「哀愁のカエル釣り」
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朝5時半にホテルをチェックアウト。
高太郎さんの車で昨日と同じポイントへ。
ルアーを投げるとあたりがありますが、昨日の朝に比べるとずっと地味です。やはり台風の影響のようです。
だめだなあ、などと思っているとWTさんにヒット!WTさんもついに初ライギョ獲得です。
やりましたなあ
ライギョの出が悪いので高太郎さんが別な釣り場へ連れて行ってくれます。
今度は開けた田園地帯の真ん中です。この頃には空はすっかり晴れてしまいました。
小林さんがルアーを引くとすぐにライギョのアタックがありました。
ちなみに小林さんや高太郎さんはだいたいこの辺でライギョが出る、というのがわかるそうです。達人ですね。
私とWTさんもはりきってキャストを始めますが、あたりはあるもののヒットには持ち込めません。
日が高くなったので、いったん釣りを終了し、たこ焼きを食べに行きました。
九州には「タコネーズ」というものを売っている店があるのだそうです。
高太郎さんが買ってきてくれたものを見ると、普通より一回り大きなたこ焼きです。
食べてみると中にマヨネーズが入っていました。すごくおいしいです。
小林さんが
「お好み焼きと似た味だな。」
と鋭い指摘。
私と小林さんはもう1パック食べてしまいました。
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「カモノハシさんのリクエストにお応えして」
と河川敷でドリフト走行を
披露してくれる高太郎さん。
リクエストした覚えはないのですが・・・
その後は近くの野池などを見物したり、もとラリーイストの高太郎さんに河川敷でドリフトテクニックを披露していただいたりして過ごしました。
夕方はどこで釣るか小林さんと高太郎さんが相談していましたが、先ほどのポイントに戻ることにしました。
午後2時過ぎ。釣り再開。
カエル釣りを実演する高太郎さん。
稲の穂を1本取り(農家の方、申し訳ありません)、
一番先の実だけ残してあとはむしりとります。
それをカエルの前でぴくつかせると、カエルが実をぱくっとと食べます。
そこですかさず竿(?)を跳ね上げると、カエルがぴゅーっと宙に飛びます。
それが落ちてくるところを手でキャッチ、というものです。
見事な技でした。
懸命にえさにとびかかるカエルの姿には悲哀がにじみ出ていました。
慣れてはきたものの、私のベイトキャスティングタックルの取り扱いはまだまだ。
キャスティングの距離は出ないし、精度は悪いし。場を荒らしているようなものです。
高太郎さんが一生懸命ポイントを指示してくれますが、ルアーがそこに入りません。
おまけにバックラッシュ(スプールが回転しすぎて糸がもつれること)を頻発。
バックラッシュを解く方法は高太郎さんに教わり、だいぶうまくできるようになりました。
フライが木に引っかかった時の回収とか、そんなもんばかりうまくなります。
ライギョの動きはだいぶ活発になってきてあちこちで姿を見るようになりました。
ライギョってのは空気呼吸もするんですね。話には聞いていましたが初めて見ました。
すーっと浮いてきて鼻ずらを水面にちょっと出すとまた沈んでいきます。
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#4の高太郎ロッドでライギョを釣る高太郎さん。 このロッドで淡水・海水の魚を10種類以上とっています。 なんだかはらはらしますが、しなやかでもパワー抜群のロッドでした。 ちなみにご自宅では奥様が布団を叩くのにバンブーロッドを使っているとか。 次回はヤマメを釣りに来てください、とお誘いをいただきました。 |
あたりはちょくちょくあるのですが、あいかわらずヒットしません。
2時間ほど経つと、WTさんや高太郎さんは休憩に入り、釣り場には私一人になってしまいました。
私も休もうかと思ったのですが、小林さんやWTさんと違って、今までろくにポイントにルアーが入っていません。
キャスティングの練習も兼ねて釣り場を順番に探っていくことにしました。
しかしライギョを見つけてルアーを投げても、ライギョはぷいっとどこかに行ってしまいます。
くやしい。
なんの反応もないまま釣り場の一番はしっこまできました。
ここはぐるっとヒシモが繁茂していて、真ん中は大きく水面が開いています。
ルアー「MP65ラ式」を投げると、向こう側のヒシモの近くに落ちました。リズムをつけてリールを巻きます。
もう少しでこちら側のヒシモに達するところまでルアーが来ました。
その時。
まるで竹箒で水面を掃いたかのような水しぶき。
ルアーが消えました。ライギョ
ラインスラックをとろうとリールを巻こうとしましたが、すでに魚は泳ぎ出しており、ぴんと張ったラインが水面に突き刺さったまま左手の方に動いていきます。
テンションを保ったままじっと様子を見ました。
突然、ラインが引かれ、重みが増します。
ロッドを跳ね上げて合わせると
かかりました。
重い。
必死でリールを巻くとライギョが水面でひらを打ちます。
でかい!
昨日釣ったのとは比べ物にならない大きさです。
すごいぞこりゃ。
リールを巻いてぐいぐいと寄せてくると、ライギョが手前の水草の中にひっかかってしまいました。ばたばたとライギョが暴れています。
振り向くと遠くの方で高太郎さんとWTさんが座っています。
「高太郎さーん」
大声で呼びますが聞こえないようです。
「高太郎さーん」
聞こえません。
こうなったら自分で何とかするしかありませんねー。
腰を入れてロッドで持ち上げると、バリバリと水草がきれてライギョが現れました。
そのまま土手の途中まで引き上げます。
もう一度、
「高太郎さーん」
と叫ぶと気がついてくれたようです。お二人が駆けつけてくれました。
「すいませんが、ちょっと手を貸していただけますか。」
WTさんがボガグリップで下あごをはさみ、高太郎さんがルアーをはずしてくれます。
やれやれ。これでだいじょうぶ。
手で持ってみると大きな魚です。高太郎さんが手の幅で測ってくれたところでは76センチ。ボガグリップの目盛りは6キロを越えています。
ちょっと大きなネコでも4〜5キロですからねえ。
昨日は気がつきませんでしたが、ライギョはきれいな目をしていました。
落ち着きと尊厳を感じさせる瞳でした。
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その後はWTさんが大きなのをばらしたりしましたがみんな釣果なく、飛行機の時間も迫ったので竿をたたんで空港に向かいました。
夕日にたたずむ小林重工社長
軽い気持ちで九州まで行ったのですが、強烈に思い出深い旅となりました。
小林さん、WTさん、高太郎さん、たいへんお世話様でございました。
ありがとうございます。
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九州ウォーターサファリガイドサービス高太郎
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料金:1日1組28,000円
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ライギョ あんたの重みの分だけ 私の心は軽くなりました |