「誇る」
2007年7月21日(土)晴れ〜7月22日(日)曇り一時雨
神奈川県山岳スポーツセンターに行く。
先月の源次郎沢に続き、神奈川県山岳連盟が主催する「中級登山教室 沢登りの実践 背戸の沢・右俣」に参加するのだ。
宿泊費などを払い、テキストをもらう。時間まで何気なくテキストに目を通す。最後のページが背戸の沢の概念図になっていた。

下流から順に追っていったが、F4(FはFall:滝の略。下から4番目の滝の意)のところで目が点になった。

F4(35m)

35m

この教室は高巻き(滝を直接登らず迂回すること)はしない。すべて直登である。
しかし、まさかなあ
などと思っていたが、講師の話を聞くとまさにその通り。
背戸の沢(せどのさわ)右俣は水無川水系の沢で最難関といわれており、その理由はこのF4なのだそうだ。

知らなかった。

けろよーん


机上講習の後はクライミングウォールに行ってクライミングと懸垂下降の練習。
懸垂下降ってのはロープを伝ってしゃーっと上から下へ降りてくること。
クライミングウォール横の階段から降りるのだが、人工物からの懸垂下降はけっこう怖い。

講師の方から
「明日のF4はこのクライミングウォールより登るのは簡単だよ。」
と励まされるが、クライミングウォールは15メートル。ここを登るのもままならないのに。
当日は東京都山岳連盟の人達も練習に来ており、
昨年、米子沢をご一緒したMDさんに偶然お会いする。
登山の世界はせまい。

夕食のメインはパエリヤ。
贅沢だなあ。

翌日は4時起床。5時半出発。講師5名、生徒11名の陣容である。
戸沢出会まで林道を1時間半歩き、支度をして背戸の沢に入る。

水をかぶりながら滝を登る。冷たい。体温がどんどん奪われていくのがわかる。
これは一歩間違えれば死ぬなあ、と思って上を見たらいきなり鼻と口に水が入った。
「くまけけけ」
苦しくて思わず手を離してしまう。恥ずかしいことにロープで宙吊りである。いったん下ろしてもらい再挑戦でクリア。

そんなことをしながら進んでいくと、いきなりF4が現れた。
高い

あまりに高いのでみんなあきらめがついたのか、講師がロープをセットする間、てんでにお菓子やらパンを食う。
順番に登っていくが、私は生徒の最後となった。
気合で登り始める。生きることに必死なのであまり怖くはない。しかし足場を確かめるために時おり下を見ると、まー高いわ。
やっとの思いで上までたどり着く。
みんな生きている実感を噛み締めたに違いない。
果敢にF4を登るわしら。
手がかり、足がかりを必死で探す。

主任講師の方によると、
この滝で命を落とされた方は何人もおり、
以前はここに慰霊碑が
たくさん建っていたのだそうである。
みんな笑顔が引きつる。
それを聞いてお経を上げる生徒も。
私も静かに合掌する。


しかしつらいのはここからだった。
登山道に出るまでのつめが急勾配。しかも泥壁が多く、足を滑らせるとかなり危ないのである。ロープで確保されている滝の方がよっぽど安全だ。
あごから汗がぼたぼたと滴り落ちる。
「もう一歩も動けません」
と10回くらい言うが、そのたびに後ろの講師の方に励まされる。
ひいひい言いながら登山道に出る。

疲れた

正次郎尾根を下り、山岳スポーツセンターに戻る。
閉講式で主任講師の方が
「背戸の沢右俣を登ったのは誇っていいですよ。」
と言ってくれた。

誇ろう
山岳スポーツセンターへの帰り道、
林道が一部崩れていた。
往きはなかったのに。
山はおっかない。