2005年6月16日(木)くもり
「仕事
午後9時過ぎ、長野駅の改札を出たところでガイドの三井さんと再会を喜ぶ。

東京駅で新幹線に乗る時は雨模様だったが、長野市ではまったく降っていないとのこと。今年はどこも雨が少ないようだ。
明日からの「森と水」のツアー「山越え沢ごもり」での釣果が少し気になる。
だがまあ、いざとなれば毒流し、手づかみという方法もある。気楽に行こう。

今回のツアーは集合時間が早く、その日に出発する電車では間に合わない。当初はBOSSさんと共に参加の予定だったので、二人で車で現地入りするつもりだった。ところがBOSSさんに「仕事の予定」というものが入った。
極めて高い社会的常識を備えるBOSSさんは、くらくらしながらツアーをキャンセルした。
一人で車で行くのも寂しいので、長野市にある「森と水スーパーオフィス」に前泊させていただき、三井さんの車で連れて行ってもらうことにした。

長野駅からしばらく車で走るとオフィスに到着。オフィスといっても三井さんの自宅だ。
この三井さんのお宅が実に感慨深い建築物なのだが、ここでは説明を割愛する。
しばらくお茶を飲んだり、リズムトレーニングをしたりしていると、参加者の一人であるKYさんが到着。
ご挨拶をした後、明日の朝が早いので寝る。

2005年6月17日(金)くもり一時雨
「丘を越えて
朝5時、目覚まし時計の音で飛び起きる。目覚まし時計の音を止めようとするのだがどうやったら止まるのかわからない。仕方がないので永遠に止まるようにする。
お茶を飲んで出発。
車で高原を走る。

しばらくすると菅平というところを通る。
ここは確かBOSSさんがラグビーの試合中に謎のハードタックルを受け、靭帯損傷した場所ではないか。
思わず合掌する。
コンビニに寄って朝食。
各自が食料を仕入れる。私はビールのロング缶を2本購入。この時はビールのことしか考えていなかったが、これが後で大きな後悔を生むことになる。

途中で第3の参加者、IHさんと合流。KYさんとIHさんは昨年もこのツアーに参加している。
IHさんはなんと車で福島県からの参加だ。いくら釣り好きとはいえ福島から参加するというのもすごい話だが、これも「森と水」ツアーの質の高さの証明であろう。
たぶん

林道のゲート前に車を止め、いよいよ出発である。
三井さんから共同装備が分担される。今日の私の担当はガソリン。ぶっ飛ばないように気をつけなくてはならない。
林道をしばらく歩いた後、本格的な登山道に入る。ここから山越えして反対側の沢に入る計画だ。気を引き締めて登り始める。

ばてた

速やかにばてた

ものすごい急坂である。雨が降っていたら登れないんじゃない?
みんなからどんどん遅れてしまう。
道に分岐はないようなので迷うことはないが、あまり遅れると私がツアーに参加していること自体を三井さんが忘れてしまう可能性はある。必死でついていく。
みんなが休憩しているところに追いつく。
「ザックが重いー」
「カモノハシさんはビール買ったからその分重いですね。
500mlを2本だと1kgですからね。

うわー そうだったのかー

その後は、ビールを捨てるか、こっそり飲んでしまうか、いろいろ考えながら歩く。
脳が半分だめになりかけた頃に尾根道にたどり着く。
ここからは沢靴に履き替えて沢を下るのだ。
沢への下り口にいきなり残雪。いやな予感がする。

沢の途中には山菜がたくさんあった。みんなで摘み取る。
相変わらず私は山菜に対する理解度が低いが、三井さんに教わりながらちょこちょこむしりとる。

沢は次第に激しさを増し、軽く身の危険を感じる。事故るとまずいので慎重に下っていく。
しばらくして沢の傾斜がゆるくなると笹薮が多くなる。いよいよ楽しみにしていたタケノコ採りだ。

タケノコといっても細いネマガリダケというやつである。
よく釣りに行く福島の裏磐梯ではネマガリダケ採りが盛んである。あまり熱中しすぎて道に迷って帰れなくなる人やクマと鉢合わせする人が毎年いる。
ネマガリダケはペンション風来坊で食事に出るし、釣りをしていてネマガリダケ採りの人に会うこともある。
しかし私はネマガリダケを採ったことはおろか、どんなふうに生えているのかも知らない。だから今回のツアーでは個人的に目玉なのである。
三井さんに教えてもらってから笹薮にもぐりこむ。
竹の根元を一生懸命探すと・・・・・・・・あった!
左上:初めて採ったネマガリダケ
右上:こんな藪の中にありました
左:テン場で手早くタープを張る三井さん
今回はテン場を移動せず、ここで2泊だ


山菜とネマガリダケをたっぷり採って本流に到着。少し下ってからテン場を確保する。
薪を少し集めてから私とKYさん、IHさんの3人はイワナの確保に出かける。
日没も近く、釣る時間は40分程度である。一人5匹獲ってくることにする。
ちなみにIHさんは私と同じフライフィッシング。KYさんは餌釣りだ。

ドライフライに対する魚の反応はいい。ただあせっているせいか、うまく針掛りしない。
小さいのは逃がしながら、何とか4匹揃える。
キャンプに戻ってみるとKYさんもIHさんもばっちり釣っており、食材はふんだんだ。

三井さんが茹でてくれた山菜と、焚き火で焼いたネマガリダケを肴にビールを飲む。
うまい!
がんばってよかった。素直にそう思う。
周りに人がいなければ落涙するところである。

平和に
平和に
日が暮れていく。


今回はスリーシーズン用羽毛シュラフとシュラフカバーを使用。
寝るときの服装は上は長袖シャツにTシャツ、下は薄いフリースのズボン。
これでちょっと暑すぎるくらいだった。
サマーシュラフでちょうど良かったかも。
フリースは不要でしたね。

2005年6月18日(土)晴れたり曇ったり 夜中に雨
笑う」
あまりよく眠れなかったが死ぬことはない。タープの下から這い出し歯を磨く。
三井さんからインスタントコーヒーをもらって飲む。
苦い。


朝食は岩魚のソテーを乗せたごはんとイワナ汁。うまいのである。
たくさん食べてから釣りの支度。
しばらく歩き、最初の滝を巻いてから竿を出す。

餌釣りのKYさんがなんと1投目で釣る。幸先いいぞ。
交互に竿を出していくが、私にはそれほど大きいのは来ない。おかしいなあ。
しかしそれは時間の問題だったようで、だんだん釣れるようになる。
カゲロウの羽化も盛んになり、ときどきライズも見られる。

今年はまだ釣りをする人が入っていないせいかイワナの警戒心が薄い。近寄っても逃げないようなやつもいる。
ある淵では、何匹か泳いでいる中から一番大きいのを選んでフライを投げて釣る、などという贅沢なことをする。
狙ったポイントには必ずイワナが入っていた。
すごく数が釣れるというわけではないが、たいへん楽しい釣りである。
そしてピークは途中の滝壺となった。ライズする魚、ふらふらと泳ぐ魚。そいつらに餌やフライを投げると喰らいついてくる。

IHさんが釣る。
KYさんが釣る。
カモノハシが釣る。
笑い声がこだまする。

圧巻はKYさん。
ライズするイワナに餌を振り込むが、イワナは虫を求めて上を見ているので掛からない。そこで竿を持ち上げて餌でちょんちょんと水面を叩くとがばっとイワナが飛び出した。すごい。

大きな滝のところまで釣り上がったところで納竿。



去年はこの滝を必死で巻いて源流を目指した。
ナメに呆然とたたずむカモノハシ。


テン場に戻りながら山菜や往きにIHさんが見つけておいたナラタケを採る。
イワナもたくさん。山菜もたくさん。タケノコもたくさん。そしてキノコまで。

テン場に戻ってから今度はワサビを採りに行くことにした。KYさん、IHさんに連れていってもらう。
藪の中をがさがさ歩いていくとワサビがあった。雑草のようにびっしりと生えている。
根を折らないように慎重に引き抜くと・・・
おー ワサビだワサビだ
3人で熱心に採る。さながらワサビ畑を荒らしに来たイノシシの群れのようである。

三井さんが夕食の支度をする間、IHさんはテン場の前で釣りを始める。1つのポイントで15匹くらい釣れたそうだ。
みんなであきれて笑う。

宴会が始まる。
貴重な2本目のビールを飲み、三井さんの日本酒を飲み、IHさんのウイスキーを飲み、三井さんからイワナの皮のむき方の実習を受けていると急に世界が回り始めた。
これはまずい。早くしないと動けなくなる!
転げるようにタープの下に入り、シュラフにもぐり込む。

8時前だというのにそのまま寝てしまう。
ウドを採る。
ナラタケを採る。
ワサビを採る。



ビールを飲む。


イワナごはんとイワナ汁。
ナラタケ入り!
天ぷらもね!


夜中に強い雨が降った。

2005年6月19日(日)くもりのち雨
「足にくる
朝日を感じて目覚める。

夜中の雨を思い出し、脱いでおいた服や装備に触ってみる。一番端っこで寝ていたので濡れているかもしれないと思ったのだ。ところが全て無事。
ラッキー、などと喜んでいたが、実際にはIHさんが気を使ってタープの下に寄せておいてくれたのだ。暢気なものである。

今朝のごはんはイワナのしょうゆ漬け丼。
昨日採ったワサビをおろしたものを乗せ、一気に食べる。
うまい。うますぎる。
ナラタケ入りのイワナ汁はますますうまい。


去年来た時にもあったロープ。
微妙な垂れ下がり具合がなんともいえない。


お茶を飲んだ後、テン場を撤収する。
少し本流筋を歩き、往きに下りてきた沢に入る。

途中でタケノコ狩りタイムとなる。みんなで笹薮に突入した。
私は欲張らず、5〜6本を目標としたのだが、どういうわけか見つからない。
「往きに我々が採りすぎて絶滅したんでしょうか?」
とKYさんに話しかける。他の人達はなんなく大量のタケノコを採集していた。

さあ、タケノコも採ったし、後は山菜をつみながら帰るだけだ。

とは言っても

帰りは往きの逆になるわけだ。この険しい沢を上り、急な山道を下らなければならない。
いやな予感は的中し、沢を登っただけで体力の限界。山道の方は半死半生となりながら転げ落ち、やっと林道のゲートにたどり着くことができた。
三井さんのリクエストで
雪渓の穴の中にもぐりこんで記念撮影する
私とKYさん。
「こんなことしておちゃらけてていいのかなあ」
とKYさん。
かなりきてます
急坂の途中で足元の土が崩れ、左足をひねる。
「大丈夫ですか?」
と言いつつばっちり写真を撮る三井さん。

「荷物持ちましょうか?」
と心配されるが、MTBで坂から転げ落ちても、
岩にニードロップしても平気なカモノハシは案の定、30秒で復活。

ううっ
ホントに負傷すれば荷物もってもらえたのに。


KYさんのザックは、イワナと山菜とタケノコでいっぱい。
ザックが変形するほどである。
私は思わず昨年のBOSSさんを思い出し、「BOSS2号」と命名。
そのことを教えると三井さんが喜ぶ。
しかし、その後、KYさんのザックには魚肉ソーセージなどが
さらにストックされていることが判明。
「歩くスーパーマーケット」と改名する。


温泉で身体を清めた後、三井さんに駅まで送ってもらう。
IHさんはこれから車で福島まで帰るのだ。無事にたどり着いていただきたいものだ。

駅でKYさんと電車を待っていると携帯電話が鳴った。
BOSSさんである。
「この週末はみんないい釣りをしているみたいなんですよ。
カモノハシさんはどうでした?

私は笑いを噛み殺すのに苦労した。


電車がホームに滑り込んでくる。








林道では雨になった。



















<写真の一部を「森と水」より提供していただいています>